特集記事が OPTRONICS に掲載されました。
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水野洋輔、李熙永、林寧生、福田英幸、中村健太郎, “ロボットの”神経”に期待される超高速分布型光ファイバーセンサー,” OPTRONICS, vol. 36, no. 12, pp. 21-26 (2017).
近年、高度経済成長期に集中的に建設されたインフラ(ビルやトンネルの内壁、ダムやパイプライン、橋梁、さらには飛行機の翼や風車の羽根など)の経年劣化や地震等の自然災害による損傷が社会問題となっており、これらの構造物に光ファイバーを埋め込み状態を監視するシステムの重要性が高まっている。そのため、光ファイバーに沿った任意の位置で歪(ひずみ)の大きさや温度を測定できる「分布型光ファイバーセンサー」を実現しようと種々の取り組みが行われている。
センシング原理となりうる光ファイバー中の散乱現象として、レイリー散乱やラマン散乱が知られている。これらの現象を応用した分布センサーは、実装が比較的容易であるが、散乱光の強度情報を利用するため安定性・精度が低かった。そこで、我々を含むいくつかの研究グループは、光ファイバー中の超音波と光の相互作用である「ブリルアン散乱」を利用した分布型センサーに着目している。ブリルアン散乱による反射光は、光ファイバー中の微弱な超音波によってドップラー効果を受け、周波数が「ブリルアン周波数シフト(BFS)」と呼ばれる量だけ下がることが知られている。このBFSは光ファイバーに印加された歪の大きさや温度に比例して変化するため、BFSを測定することでそれらを決定することが可能となる。この手法は、散乱光の強度ではなく周波数を利用するため、安定性・精度が高いのが特長である。
歪や温度の位置情報は、光パルスを入射して反射光が届く時間差から位置を分解する時間領域法が一般的である。一方、これまでに我々は連続光の相関を制御することで位置分解を行う相関領域法「ブリルアン光相関領域反射計」(BOCDR)を提案した。この手法は、(1) 光ファイバーの片端から光を入射するだけでの動作(光ファイバーが破断しても動作が継続・構造物に敷設する際の自由度が高い)、(2) 片端光入射法として世界最高の6 mmの空間分解能、(3) 他の分布センサーと比較して低コスト、などの利点を併せ持つことから、精力的に研究が推進されてきた。BOCDRについては、これまでの研究で種々の成果が得られているが、現状ではサンプリングレートは19 Hzが最高であり、結果として分布測定に比較的長時間(数10秒~数分)がかかるという問題があった。この問題を解決すべく、我々は2016年に、ブリルアン散乱スペクトル(BGS)の形状解析に基づく高速BOCDRを2種類提案した。
本記事では、「位相検波BOCDR」と「傾斜利用BOCDR」と呼ばれる2種類の高速BOCDRを紹介する。本システムにより、防災・危機管理技術としてのBOCDRの応用範囲が広がり、生活の安全性向上に寄与するとともに、ロボットの新たな「神経」としての応用も期待できる。